大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)22号 判決

大阪市西成区山王町一丁目一四番地

原告

北畑静子

右訴訟代理人弁護士

平山芳明

大阪市西成区千本通二丁目一七番地

被告

西成税務署長

中谷正一

右指定代理人検事

鎌田泰輝

同法務事務官

池田孝

同大蔵事務官

重松靖久

池沢健三

大作七郎

右当事者間の物品税賦課処分取消請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

一  原告

被告が、昭和四一年七月一一日付で、別表二記載のとおり、昭和三六年九月分、同年一一月分、同年一二月分、および昭和三七年三月分の物品税につきなした各賦課決定ならびに昭和三七年五月分、同年一一月分、昭和三八年二月分、同年四月分、同年五月分、および同年七月分から昭和三九年六月分までの物品税につきなした各更正決定および無申告加算税賦課決定はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

(当事者の主張)

第一原告の請求原因

一、原告は古物商を営む者であるところ、被告は昭和四〇年七月一二日付をもつて、原告に対し、原告が昭和三六年五月から昭和四〇年一月までの各月間に別表一原処分課税標準額欄記載の課税標準額相当の貴石および貴金属製品等(別表一記載の各販売日当時施行の各物品税法〔昭和三六年五月ないし昭和三七年三月当時施行の物品税法-以下旧物品税法という-および昭和三七年四月ないし昭和四〇年一月当時施行の物品税法-以下物品税法という-〕所定の第一種の物品をさす。以下同じ。)を販売したとして、物品税につき、その課税標準額および税額を別表一原処分課税標準額欄、同税額欄記載の各金額とする各決定および無申告加算税につき、その税額を別表一原処分無申告加算税額欄記載の各金額とする各護課決定をなし、そのころ原告に通知した。

そこで原告は被告に対し右各決定および賦課決定について異議申立てをしたところこれを棄却する旨の決定を受けたので、訴外大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和三六年一一月分、昭和三八年五月分同年一一月分、昭和三九年一二月分については、その物品税課税標準額、税額および無申告加算税額を別表一裁決欄記載の各金額とする裁決(いずれも原処分の一部を変更した裁決)をなし、その余の各月分については審査請求を棄却する旨の裁決をなし、そのころ原告に通知した。

なお、被告は、昭和四〇年一一月二二日付をもつて、原告に対し、さきになされた物品税決定、同無申告加算税賦課決定のうち昭和三七年一一月分、昭和三九年六月分、同年七月分につき、別表一更正決定欄記載の各金額とする各物品税更正決定、同無申告加算税賦課決定をなし、そのころ原告に通知した。

(しかして原告は右物品税決定、同更正決定、同無申告加算税賦課決定に対し、当庁に対し、物品税賦課処分取消請求の訴を提起し、右事件は当庁昭和四一年(行ウ)第六号事件として当庁に係属し、審理済みである。)

二  さらに被告は昭和四一年七月一一日付をもつて、原告に対し、さきになされた物品税決定、同更正決定、同無申告加算税賦課決定のうち、昭和三六年九月分、同年一一月分、同年一二月分および昭和三七年三月分について別表二課税標準額欄、同税額欄記載の金額とする各物品税賦課決定、昭和三七年五月分、同年一一月分、昭和三八年二月分、同年四月分、同年五月分および同年七月分から昭和三九年六月分について、別表二課税標準額欄、同税額欄記載の金額とする各更正決定および同無申告加算税額欄記載の金額とする各無申告加算税賦課決定をなし、そのころ原告に通知した。

三  そこで原告は被告に対し、昭和四一年七月二七日右各決定および賦課決定について異議申立てをしたところ、右は当時の国税通則法第八〇条により訴外大阪国税局長に審査請求があつたものとみなされ、同局長は同年一二月一九日右審査請求を棄却する旨の裁決をなした。

四  しかしながら、原告が右期間内に販売した貴石および貴金属製品等はすべて古物営業法第一条第一項にいう古物(一度使用された物品もしくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入をしたものをいう。以下同じ)であつて、物品税法、旧物品税法上の第一種の物品として過去において課税ずみであり、従つて各物品税法所定の課税物品には含まれないから、右古物の小売に課税した被告の本件物品税賦課決定、同更正決定、同無申告加算税賦課決定は各物品税法の解釈を誤つた違法な二重課税というべきである。

以下その理由を詳論する。

(一) 物品税は消費税として奮侈品税的傾向を有するとともに、物件税であるから印紙税又は不動産取得税のような財貨流通の事実を課税の対象とし取引の各段階において低率の課税を行う流通税とはその本質を異にするものであつて、物品販売のある一段階において一回課税しさえすれば、それでその目的を達成することができるものである。従つて物品税法および旧物品税法が第一種の物品については小売業者が小売をした際に課税する方法(以下小売課税という。)をとり、第二種以下の物品については製造者が製造場から移出した際に課税する方法(以下移出課税という。)をとつているけれどもその差異はあくまで徴税上の技術ないしは便宜によるもので右両者について物品税としての本質を異にするものではない。

ところで移出課税の方法をとつている第二種以下の物品については、製造者は「その製造に係る製造場から移出されたものにつき、物品税を納める義務がある」のであつて、単に移出の機会がありさえすれば当然課税されるというようなものではなく、製造という新たな価値-新商品を作り出し、それを流通過程に乗せることによつて初めて課税原因が発生し、従つてその物品が古物であれば、新たな製造行為の加わらない限り、移出小売の過程が何回繰り返された場合でも、これに対する課税は一回限りしか行なわれないことは明らかであるが、このことは徴税方法を異にする第一種の物品についても同様の理であつて、第一種の物品に対する物品税と第二種以下の物品に対する物品税との間に本質的な差異がないとする限り、第一種の物品に対する物品税の課税も一回に限られなければならないというべきである。

このように実体法上物品税の本質は、製造行為によつて新しく作り出された価値-商品が流通過程におかれる一時点をとらえ、これを課税原因として把握するところにあり、したがつて一度課税され、消費者によつて消費された物品については、それが、「使用による価値減少の小さいもの」であれ、「価値減少の大きいもの」であれ、再び製造行為が加わり、新しい価値-商品とならない限り、何回移出、小売等の行為が繰り返されたとしても、右行為自体だけでは何ら課税原因となるものではない。

しかるに被告は物品税法第三条に規定する小売課税の趣旨を「小売課税の目的からすれば小売という新たな課税原因の発生につき個々に課税する」ものと解して、物品税が本来消費税でありかつ物件税である性質を無視してこれを流通税ないしは取引税類似のものと解し、本件の課税処分を行うに至つたもので、かような見解は物品税の本質を無視し、物品税法第三条の解釈適用を不当に拡張したもので到底許さるべきではない。尚被告の見解の違法なことは、もしこれを許すと第一種の物品に対する物品税は第二種以下の物品に対する物品税とその本質を異にすることとなる点からも明白である。

(二) また物品税は昭和一二年八月一二日法律第六六号北支事件特別税法物品特別税の制定によつて創設されその後数回に亘る改正を経て現在に至つたものである。しかしながら右数回に亘る改正によつても物品税の本質その性格については何らの変更もなく、これらの改正はいずれも課税対象、徴税方法、課税率等の変更を中心としたものであつた。

すなわち、物品税創設当時は現行法と同様、物品の種類によつて小売課税と移出課税の二方法をとつていたのであるが、昭和二一年八月三〇日法律第一四号所得税法の一部を改正する等の法律によつて物品税の徴税の手続を簡素化し、課税の適正公平を期するため、書画および骨書を除き、すべて小売課税制度から移出課税制度に改められ、右課税制度はその後七年間に亘つて実施されてきた。しかして、昭和二八年五月三〇日法律第四一号物品税法の一部を改正する法律によつて、従来の第一種物品中、貴石、半貴石またはこれを用いた製品等の五品目(貴金属製品等はこれに含まれる)について徴税の合理化と課税の適正を期するため物品税創設当時と同様に小売課税制度にかえつたが、このような徴税制度は昭和三七年に改正された現行法にも踏襲されている。以上の沿革からからみても明らかなとおり、小売課税制度をとるか移出課税制度をとるかはあくまでも徴税方法の合理化と課税内容の適正化を期するためのものであつて、それによつて物品税の本質に対してまで重大な差異(すなわち移出課税の物品については課税は移出のさい一回限りであるが、小売課税の物品については小売の一段階において課税するだけでは足らず、小売行為が反覆されれば各一回の小売行為の都度課税されるという差異)や変更を及ぼしたものではない。しかして第一種の物品 についても昭和二一年の改正以来昭和二八年の改正に至るまでの間は移出課税物品として一回限りの課税が行なわれていたことは明白であり、右改正によつてもその本資には何らの変更も加えられていないのである。従つて課税ずみ物品たる古物については現行法においても第三条に第一項にいう「課税物品に該当するもの」から除外されるとみるのが当然である。

なお昭和二八年法律第四一号の附則第四項および同年政令第一〇一号物品税法施行規則の一部を改正する政令附則第七項の規定は、第一種の物品について従前移出課税であつたものを小売課税方式に改めるに際し、改正時に小売販売業者が所持している課税ずみ物品について法改正後の小売については課税しない旨の当然のことを規定したものにすぎないから、右のごとき規定があるからといつて本件課税が適法となるものではない。

(三) さらに物品税法は昭和二一年の改正によつて書画、骨董を除く第一種の物品について移出課税方式をとり、その後昭和二八年の改正によつて再び右第一種物品について小売課税方式をとるようになつたことはすでに述べたとおりであるが、その際「貴金属製ノ時計及同部分品並ニ金又ハ白金ヲ用ヒタル時計及同部分品」については、従前同様の移出課税方式を踏襲し、この取扱いはその後も拡張され、昭和三七年の改正では、貴金属製品のみならず、「貴石若しくは半貴石又は金若しくは白金を用いた時計並びに時計部分品」についても移出課税方式をとることとなり、この立場は昭和四一年三月三一日改正の現行物品税法においても依然として踏襲されている。以上の如き改正の経過をみれば、ひとしく古物の売買でありながら、移出課税方式をとる貴金属、貴石等を用いた時計製品(以下単に貴金属製時計という。)については、課税原因たる移出行為がないから課税対象とならず、小売課税方式をとるその余の貴金属、貴石等の製品(以下単に貴金属製品という。)については、課税原因たる小売行為があるから課税対象となるというように、物品税法上右両者が相互に本質を異にするものとしてその取扱を異にすることを認めるような法解釈は到底許されない。

(三) 次に物品税法第三条第一項は第一種の物品の小売業者は、その小売をした第一種の物品(課税物品に該当するものに限る)につき、物品税を納める義務があると規定しているところから明らかなごとく、課税の対象となるものは小売業者が小売をした第一種の物品中課税物品に該当するものに限られるのである。ところで古物についてはすでに物品税は課税ずみであつて、重ねてこれを課することは前述したとおり許されないところであるから、明文の規定が存在しなくとも古物は当然に物品税法第三条第一項の「課税物品に該当するもの」からは除外されるべきである。

しかるに被告は、物品税法は課税物品の用語を用いるにあたり、特に古物を除外するときは、その旨の特別規定をおいているので右のごとき特別の規定のないかぎり課税物品の中には古物も含まれると主張し、その根拠として物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条等を挙げている。しかしながら右各法条は被告の主張するごとく、課税物品から特に古物を除外する場合を規定したものではなく、むしろ、その反対に、右各法条に該当する場合は、古物といえどもそれが課税物品となることを特に明示しているものというべきである。

すなわち

1 第一六条第一項に古物を除外しているのは、第二種物品の第二次製造者が、その原、材料として、既に課税済みの第二種物品の第一次製品を使用または消費している場合であつても、右原、材料が古物である場合には、右法条の税額算定の特例を認めない旨、換言すれば、第二次製品中に含まれた古物については、物品税が課税されることを明らかにしたものであり、

2 第二一条第一項の場合は、同法条所定の課税済物品を輸出した場合の物品税還付の特例から古物を除外する旨、換言すれば、右輸出物品が古物である場合には、これを非課税物品として取扱わないことを明らかにし、

3 第二四条は、課税済物品を同法条所定の特殊用途に供した場合の物品税還付の特例から古物を除外する旨、換言すれば右特殊用途に供した物品が古物である場合には、これを非課税物品として取扱わない趣旨を明示したものである。

(五) さらに物品税法施行令第五二条第四項の規定(課税物品の販売業者の記帳義務に関する規定)からみても古物が課税物品から除外されていることは明らかである。すなわち右規定は、第一に課税物品の販売業者に対し購入した課税物品および販売した課税物品につき、その種別、類別、号別ごとに品名、数量等に記帳義務を課し、第二に販売した課税物品が古物である場合および施行令第五二条第五項の規定に該当する場合を除き、課税物品の買受人が、課税物品の製造者もしくは販売業者または課税物品を材料もしくは原料とする他の物品の製造者である場合で、右課税物品の販売が小売に該当せず、従つて課税対象とならない場合に限つて、特に買受人の住所および氏名又は名称を記帳することを要求している。ところで第二の場合買受人に関する事項の記帳を義務づけているのは右課税物品の売買が課税の対象とならず、従つてその後になされる買受人による小売を適確に把握して課税する必要からであり、他方古物についても、その小売についてまづ詳細な記帳義務を要求しているのは、それによつて新しい課税物品を古物と称して販売することによつて課税を免れようとする者に対し、その販売先を確認することによつて、これを防止しようとするものなのである。言い換えると、新品の課税物品の小売販売について買受人に関する事項の記帳義務を免除しているのは、その段階で課税がなされたため、それ以後の物品の流れを追及する必要がないためであつて、かりに古物の小売販売についても課税されるものとすれば、新品の課税物品と同様にそれ以後の物品の流れを追及する何らの必要もないから右規定は全く無意味なものといわざるをえないことになる。

(六) また、小売課税方式の場合、形式的には、二重課税による負担は新たな消費者が被つている如くみえるが実質的には同一消費者自体が不法な二重課税を受ける結果になる。すなわち消費者は貴石を購入する場合、貴石そのものの価値に物品税を加えた金額を出捐しなければならないが、さらにこれを業者に売る場合は、業者はこれを転売するさいの物品税を考慮して、適正な買受価格から右物品税相当額を控除した価格で買取ることになるから、結局右消費者は、二重課税の負担を全面的に強いられる結果になるわけである。

(七) 物品税法上、第一種第一類の物品(貴石、貴金属製品等もこれに含まれる。)の税率は物品の価格の一〇〇分の二〇である。ところで第二種以下の物品は移出課税であるため製造価格を基準として課税されるのに対し、第一種の物品は小売課税であるため製造価格に中間の販売業者の利益を加算した小売価格を基準として課税されるため、移出課税の税率と比較して消費者の税負担率は相当高いものとなる。ところで流通税又は取引税として現存するものは、取引の各段階についてそれを課税の対象とする反面課税率は極めて低いものである。そうだとすれば第一種の物品についておよそ前述のごとき高率の税金を小売の都度課税することは現行税法体系上到底首肯することはできない。

第二被告の答弁および主張

一  請求原因一ないし三の事実は認める。同四の主張は争う。

二  原告は昭和三六年九月、同年一一月、同年一二月、昭和三七年三月、同年五月、同年一一月、昭和三八年二月、同年四月、同年五月、同年七月から昭和三九年六月までの各月間に別表二課税標準額欄記載の課税標準額相当の貴石および貴金属製品等を小売販売した。

三  物品税は財政学上一般に消費税とされている。そして消費税とは消費の事実に対して課される税であり、消費税の客体は消費という事実であるといわれている。このように消費という事実をとらえ、これに税を課する理由は、消費が所得の存在を前提とするため、そこに担税力が存在すると考えられるからである。換言すれば、消費という事実によつて消費者はそこに所得が存在していることを表現しているので、この消費に示される担税力に応じて税を課そうとするのである。

右に述べたように、消費税は消費の事実をとらえ、そこに担税力があるものとして税を課するものであるから、その精神からすれば財貨流通の最終段階に達するところ、すなわち消費者の消費行為を直接に捕捉して課税する(直接消費税)のが最も本来の趣旨に合致し適当なものということができる。しかしこのような直接消費税の方法による課税は少数の例外を除き課税技術上極めて困難に属し、殆ど不可能に近いところから、それ以前の段階において課税する間接消費税の方法が考案されるにいたつた。このように物品税は間接消費税の体系に属する租税であり、消費者に税負担を転嫁する建前をとつているもので、究極的な担税者は物品の消費者というべきである。そして、この間接消費税の課税方法としては、たとえば小売課税方式、移出課税方式、引取課税方式等種々の方式が考えられるが、消費税の本質からいえば、より一層消費者の消費行為に接近した段階で課税する小売課税方式が最も理想的な課税方式であるといえるわけである。

物品税は、右に述べたとおり、消費税の本質にもとづき個々の物品の消費に示される担税力に応じて課される間接消費税であり、主として奢侈品、娯楽用品、趣味観賞用品、社交的身廻用品、し好品、便益品的なものを課税物品とするものである。そして、その物品の性質に従い、その使用消費に接続するものとしての小売、移出または引取の段階に課税の時期を求め、その当事者を納税義務者としている。小売課税物品と移出課税物品との選択については、一般には貴石、貴金属製品等の趣味、し好性が高く、使用による価値の減少が小さいものを小売課税物品とし、電気製品等の規格量産的で使用による価値の減少の大きいものを移出課税物品としており、課税標準については建前として、小売課税にあつては実売価格主義をとり、移出課税にあつては抽象価格主義をとつている。

四、(一) 物品税の本質はすでに述べたとおり、個々の物品の消費に示される担税力に応じて賦課される間接消費税である。従つて課税物品は、本来その使用の前後を問わず、使用消費につながるものとしての小売、移出または引取の機会がありさえすればそれが何回繰返されようと、その都度課税されるのが当然であり、物品税法第三条第一項の解釈につき、すでに課税済である場合には、第一種物品についても、第二、第三種物品と同様、製造加工による新価値の創造がない限り、何回移出、小売等が繰返されても、課税対象にならない旨の原告の主張は理由がない。

(二) 物品税は昭和一二年八月一二日法律第六六号を以つて北支事件特別税法のうちの物品特別税の制定によつて創設され、その後数回に亘り別表三記載のとおり改正された。その間第一種物品の課税方法は消費税の本質から消費者にもつとも近い小売の段階で課税するいわゆる小売課税方式をとつていたが、第二次大戦終結にともなう経済の混乱から流通市場がいわゆる闇市場と化し、物品税の徴収が困難となつたため、昭和二一年八月三〇日法律第一四号によつて従来右小売課税方式であつた第一種物品を書画、骨董を除き、すべて移出課税方式に改めたが、その後次第に経済状況が安定してきたので昭和二八年五月三〇日法律第四一号によつて再び小売課税方式をとるよう改めたものである。

以上のような経緯から明らかなように、これらの改正はいずれも経済状況に応じて課税方法を実情に即するように改めたものであり、課税の時期を時宜に応じて適正に行うようにするための措置であつて、これによつて物品税の本質に何等変更を生ぜしめるものではなかつたのである。したがつて、小売課税方式と移出課税方式とはたんに課税の時期の差異にすぎず、いずれの方式も課税原因が発生すればその都度課税されるものである。

なお、昭和二八年五月三〇日法律第四一号物品税法の一部を改正する法律附則第四項および昭和二八年五月三〇日政令第一〇一号物品税法施行規則の一部を改正する政令附則第七項によると、改正前に移出課税とされていた第一種第一号から第五号までの物品について販売業者が所持している旨の届出をした物品(以下申告物品という。)については、その申告物品を同政令施行後最初に小売した場合にのみ、その物品税を免除するものとされているが、これらの規定が単なる注意規定でないことは明らかであり、申告物品以外の物品については、新、旧をとわず第一種物品に該当する場合には、特に免除する旨の規定がないかぎり、物品税は免除されないという解釈が成立するのである。このように法律が課税原因である小売が一つの物品について数回ありうべきことを予想するとともに、その小売の都度物品税を課税すべきものとしていることは明らかである。

(三) 原告は、同じく古物でありながら、貴金属製時計は課税原因である移出行為がないから課税対象とならずその他の貴金属製品には課税原因である小売行為があるから課税対象となるというような、物品税法上右両者の間にその本質を異にするような法解釈をすることは許されないと主張する。しかしながら、原告主張の貴金属製時計といえども、効用上は時計であり、しかも課税物品の所属類別を定める物品税法の別表「課税物品表」上第二種物品として法定されており、これに対して右法定の類別を変更したのと同一の結果を生ずべき解釈を加えることは租税法律主義の原則からいつて許されない。

(四) 物品税法第三条第一項に規定する課税物品が物品税法別表に掲名された物品のうち、同法第九条に規定された非課税物品を除くものを指称することは同法第二条に明規するところであつて、原告の主張する古物が課税物品から除外される旨の明文の規定は何ら存しないのである。のみならず物品税法は課税物品の用語を用いるにあたり、特に古物を除外するときには、その旨の明文の規定をおいていることから考えると、同法は課税物品のうちに古物を包含することを当然の前提とするものであるといわなければならない(物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条等)。物品税法第三条第一項のかつこ書の規定は、同法が課税物品について掲名主義をとつているため、条文の規定に第一種の物品とのみ表示したのでは形式上同法第九条に規定する非課税物品までも課税対象に含む表現となるので、それを排除するために設けられた規定にすぎないのであつて、それ以上格別の意味をもつものではない。

(五) 物品税法施行令第五二条第四項において、販売業者が課税物品を製造者または販売業者に販売し課税対象にならない場合に買受人に関する事項について記帳義務を設けており、またこれと並んで古物についても右と同様買受人に関する記帳義務を要求しているからといつて、このことを根拠に古物が課税物品から除外されているということはできない。

(六) 原告は、古物の消費者は二重課税の被害をもろに受けることになると主張するが、いわゆる古物と称するものの小売業者を買手とする取引価格はすべて買手の意思によつて一方的に決められ、譲渡人の希望売渡価格は無視されがちで、古物としての市場価格の限度内で小売業者の小売マージンを控除した残余価格で取引されるのが業界取引の常識である。したがつて消費者が第一種物品を小売業者(古物営業法による許可を受けた者)に売渡す場合、その売却価格は、多くの場合新品の市価よりかなり低額になるのが通常で、この差額の大部分は買受業者の転売マージンによつて占められるのである。故に原告が主張するような小売業者の転売に伴う所要物品税の額は、その全体からみて微々たるものであり、まして小売課税方式のもとにおいては、再販売過程の中に多かれ少かれ、物品税がその一部分を占めることはやむを得ない。しかし、右の事象は、事実上の問題であつて、法律上は、第一種物品の物品税を負担する者は、それを業者から新たに買受ける消費者であるから、物品税法上二重課税を生ずることはない。

(七) 物品税の税率は、その改正過程が示すごとく、その時代における経済状態、物品の流通市場における価値または国家財政の問題等諸種の事情を考慮して決定されているもので、昭和二八年の改正によつて移出課税から小売課税に改められた際移出課税の際の税率では流通マージン部分だけ高過ぎるので移出課税の際の税負担と同程度とするよう改正されている。またいかなる物品にいかなる程度の税率の物品税を課するかということは、前述のとおり、もつぱら立法上の問題であつて、物品税が高率であることをもつて、一度課税された古物が常に課税物品から除外されるとすることはできない。

(証拠)

一  原告

甲第一ないし第一二号証を提出し、証人北畑実の証言を援用し、乙第四号証、第五号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

乙第一ないし第五号証を提出し、甲号各証の成立はすべて認める。

理由

一  請求原因一ないし三の事実は当事者間に争いがなく、被告の主張二の事実は原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

二  原告は貴石および貴金属製品等の古物は旧物品税法ないし物品税法所定の課税物品に該当しないと主張するので以下この点について検討する。

(一)  原告は、実体法上物品税の本質は、製造行為によつて新しく作り出された価値-商品が流通過程におかれる一時点をとらえ、これを課税原因として把握するところにあり、したがつて一度課税された物品については、再び製造行為が加わり新しい価値-商品とならない限り、何回移出、小売が繰り返されても物品税の課税対象とならない旨主張するが、物品税の本質は新しく作り出された価値-商品それ自体を課税原因として把握するものではない。すなわち物品税は消費税であり、個々の物品の使用、消費という事実を課税の客体とするものであり、そこに消費者の所得の存在を推認し、そこに担税力の存在を認めてこれに課税するところにその本質があるというべきであり、従つて新たな価値の添加の事実がなくても、いやしくも所得の存在、担税力を顕示する使用、消費、これにつながる小売、移出、引取行為が存在する以上、それが何回繰り返されようと、その都度課税されるのが当然であり、原告の主張は失当である。

(二)  また原告は、物品税に関する立法の経過からみても、小売課税方式をとるか、移出課税方式をとるかはあくまでも徴税の合理化と課税の適正化を期するためのものであるから、移出課税の物品については課税は移出のさいの一回に限られるが、小売課税の物品については小売の一段階において課税するだけでは足らず、小売がなされる都度課税されるというような物品税の本質に重大な差異が生ずるような解釈をすることは許されない旨主張するが、物品税に関する立法の経過は別表三記載のとおりであつて、小売課税方式と移出課税方式とは単に課税の時期の差にすぎず、これによつて物品税の本質に差異をきたすものではなく、従つて(一)に述べた物品税の本質によれば、課税物品は本来その使用の前後をとわず、使用、消費につながる小売、移出、引取行為が存在する以上、それが何回繰り返されようとその都度課税されるのが当然である。原告の右の見解は移出課税方式をとる物品が事実上一回課税されるにすぎないということから、小売課税方式をとる物品についても法律上一回に限られるべきであるという結論を導こうとするもので、物品税の小売課税方式の本質を誤つて理解していることによるものと思われる。

のみならず昭和二八年五月三〇日法律第四一号(物品税法の一部を改正する法律)施行規則(昭和二八年五月三〇日政令第一〇一号物品税法施行規則の一部を改正する政令)附則第七項の規定は、同第四項の申告物品を右政令施行後最初に小売した場合にのみ、これにつき第六項の申告をすることを要件として物品税が免除されることを明示したもので、単なる注意的規定ではないのみならず、むしろその反対解釈として、特に免除する旨の明文の規定がないかぎり、物品税を免除するものではないと解釈するのが相当であり、このようにみてくれば、法律は課税原因である小売が一つの物品について二回以上ありうべきことを前提したうえで上記のように規定したものと解せられるから、原告の右主張も失当である。

(三)  つぎに原告は、旧物品税法ないし物品税法改正の経緯をみれば、ひとしく古物の売買でありながら、移出課税方式をとる貴金属製時計については、課税原因たる移出行為がないから課税対象とならず、これに対し小売課税方式をとるその余の貴金属製品については課税原因たる小売行為があるから課税対象となるというがごとき、右両者の間にその本質を異にするような法解釈は許されない旨主張するが、小売課税方式をとるか移出課税方式をとるかはあくまでも立法政策上選択せられるべき課税技術上の手段方式の差異にすぎないものというべきであるから、ひとしく古物でありながら、原告主張のごとく、一は課税対象とならず、他は課税対象となる結果を生ずる場合があつても、これをもつて、直ちに物品税法上同一なるべき両者につき理由なくその本質を異にするような法解釈をなす不当を敢えてするものということはできず、原告の右主張も採用の限りでない。

(四)  さらに原告は、物品税法第三条第一項は第一種の物品の小売業者は、その小売をした第一種の物品(課税物品に該当するものに限る)につき、物品税を納める義務があると規定しているところ、古物はすでに課税ずみであつて重ねて物品税を課することは物品税の本質からいつて許されないから、明文の規定が存在しなくとも古物は当然に物品税法第三条第一項の「課税物品に該当するもの」からは除外されるべきであり、しかも、物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条の規定も右各法条に該当する場合に限つて古物が課税物品となることを明示しているものであると主張する。

しかしながら、物品税法第三条第一項にいう課税物品とは、同法第二条に規定されているとおり、同法の別表に掲げられた物品のうち同法第九条の規定により物品税を課さないものと定められている物品(同法施行令第六条、同別表第三および第四に掲げる物品)以外の物品をいうのであつて、右第三条第一項の「課税物品に該当するものに限る」との文言を、原告が主張するように古物を課税物品から除外する趣旨を規定したものと解することはできない。また物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条の規定は、課税物品から特に古物を除外する場合を規定したものではなく、むしろその反対に、右各法条に該当する場合であつても、古物については同各法条所定の特例を認めない旨、換言すれば、古物については、右各法条所定の非課税物品扱いをしない趣旨をかつこ書で明らかにしたものであることは原告の主張するとおりである。しかしながら、右各法条が課税物品という用語を用いるに当り、特に古物を除外する旨を断つていることは、その文言、規定の方式自体から明らかであるから、右各法条は、古物が物品税法上課税物品として取り扱われていることの根拠にはなつても、右各法条から古物が全般的に物品税法にいう課税物品に含まれていないとの結論を引き出すことはできない。けだし、原告の主張するごとく、もし古物が物品税法上の課税物品に該当しないものとすれば、前記各法条のかつこ書のごとき規定は、そもそもその必要がないものというべきだからである。したがつて原告のこの点に関する主張も失当である。

(五)  つぎに、原告は、物品税法施行令第五二条第四項の規定(課税物品の販売業者の記帳義務に関する規定)が古物の小売についても詳細な記帳義務を要求していることをもつて、古物が課税物品から除外されるべきであると主張するが、右施行令第五二条第四項の古物に関する規定は、これを同条第一、第二、第五項の各規定の方式との関連ならびにその規定の文言および方式自体から観察すれば古物営業法第一七条に定める古物商の記帳義務を右施行令によつて排除することのないようにしようとする趣旨を定めるものであることが明らかであるから右規定の存在から、原告主張の、古物は物品税法上の課税物品でないことを推論するのは失当である。

(六)  また原告は古物に対してもその小売毎に課税されるとすると、実質的には同一の消費者が原告の主張するごとき事由で不法な二重課税を受ける結果になると主張するが、なるほど取引の実際において原告主張のごとき事態があつたとしても、法律上の物品税の担税者は、あくまでも当該物品を業者から新たに買受ける第二次の消費者であつて、右物品を業者に売つた第一次の消費者ではないから、物品税法上二重課税を生ずることはない。

(七)  さらに、原告は第一種第一類の物品(貴石、貴金属製品等もこれに含まれる。)の税率は一〇〇分の二〇という高率であり、かかる高率の税金を小売の都度課税することは許されないと主張するけれども、いかなる物品にいかなる程度の税率を課するかは、もつぱら立法上の問題であるから、税率が高いことは古物を課税物品から除外すべき現行実定物品税法上適法な理由となしえないことは明らかである。

三、以上のとおりであるから、原告の主張はいずれも理由がなく、第一種の課税物品には当然古物も含まれ、課税の対象となるのであるから被告の本件課税処分は適法というべきである。

四、よつて、原告の本訴請求はいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 辰已利男 裁判官 仙波厚)

別表一

〈省略〉

別表二

(ただし、昭和三七年三月分までは賦課決定、昭和三七年五月分以降は更正決定)

〈省略〉

別表三

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例